IBERIT 90mm f/2.4 レビュー ~ 武石修

 

第2回目となる今回は、前回のHandeVision「IBERIT 50mm f/2.4」に引き続いて同社の「IBERIT 90mm f/2.4」を採り上げます。

撮影地は両国界隈。歴史と伝統のある街の夏をしっとりとした描写で切り取ることができました。オールドレンズファンも必見の1本です。

■ 驚くほど小さい90mmレンズ

本レンズは、35mmフルサイズセンサーに対応するマニュアルフォーカスレンズです。ソニーEマウント、富士フイルムXマウント、ライカMマウントがラインナップされています。

同じシリーズとして24/35/50/75mmがラインナップされていて、いずれも開放F2.4となっています。90mmはやや長めの中望遠レンズですが、F2.4に抑えていることでかなり小さなレンズとなっています。スナップ撮影で持ち歩いても全く苦にならない大きさ、重さというわけです。

90mmといえば、ポートレートレンズといわれる85mmレンズに近い焦点距離なので、もちろんポートレートにも向いています。しかし、今回のようなスナップ撮影では、街の風景の一部をまさに「切り取る」という言い方がぴったりの撮影ができました。

画質については、絞り開放付近ではやや柔らかくしっとりした空気感で描写できます。柔らかいといってもピントの芯はしっかりあるのでご安心を。最近は絞り開放からカリカリのレンズも多く、それもまたよいのですが、このわずかな柔らかさがIBERIT 90mm f/2.4の特徴であるように思いました。

一方絞ればカリッとした描写のレンズに早変わりです。作例でわかるように遠くのビルまで十分に解像してくれます。このレンズシリーズはミラーレスカメラに最適化した設計をしているとのことで、高い解像力が必要な風景写真にも対応できるでしょう。

レンズ構成は4群4枚。最短撮影距離は70mm。絞り羽根は10枚。フィルター経は49mm 。外寸は58×69-79mmで、重量は280-340g(いずれもマウントによって異なります)。

先のIBERIT 50mm同様、鏡胴はしっかりした金属製。フォーカスリングの感触も昔のよくできたMFレンズを彷彿とさせるものです。ピント合わせの操作が楽しくなるレンズと言えるでしょう。

■ 歴史の街 両国を歩く

今回は夏の湿度感というか、そういった夏ならではの街の風情を撮ろうとレンズを向けました。まず向かったのは旧安田庭園。鯉や亀のいる大きな池を中心に緑が豊かな都会のオアシスです。

石造りの橋を遠くから狙いました。手前の草を前ボケに入れることで奥行き感を出しています。前の草がボケすぎないようにF8に絞りました。

 

1/200秒 / F8 / ISO100

続いても同じ庭園内で木でできた塀を撮りました。竹と紐が凝った装飾になっています。直線のある被写体ですが、歪曲収差がほとんど確認できない優秀なレンズと言えそうです。

1/400秒 / F5.6 / ISO400

絞り開放でシダの葉を狙いました。最短撮影距離は70cmとさほど寄ることはできませんが、それでも前後の大きなボケを得ることができます。

1/1,600秒 / F2.4 / ISO400

続いて横網町公園に移動すると、東京都慰霊堂というお城のような建物がありました。その佇まいを敢えて絞り開放で撮ることで、落ち着いた1枚にすることができました。

1/1,250秒 / F2.4 / ISO100

横網町公園を歩く人をスナップ。慣れてくると素早くフォーカスを合わせることが可能で、ちょうど良いタイミングでシャッターを切ることができました。

1/1,600秒 / F2.4 / ISO100

これも同じ公園内の木です。このように、絞り開放ではそれなりに周辺減光があるのがわかります。ただこの場合は、中心の木を目立たせる効果になっていて好ましいと思います。

1/5,000秒 / F2.4 / ISO100

そして隅田川沿いを歩きます。柵には両国ならではの装飾が。絞りを開放にして水面の反射を玉ボケにしてみました。輪郭が主張しすぎず、また周辺を除けばある程度円形なので、夜景などでも使いやすそうです。

1/4,000秒 / F2.4 / ISO100

再度両国の街中に戻り、高速道路の支柱をF8に絞り込んで撮影しました。長年のサビや汚れといったディテールが克明に描写されていました。

1/2,000秒 / F8 / ISO200

逆光ではコントラストの低下があり、「逆光に強いレンズ」とは言えません。しかし、筆者もですがこうしたノスタルジックな描写が好きな方も多いでしょう。新品で買えるレンズでこうした写りを楽しめるのは貴重です。

1/4,000秒 / F2.4 / ISO200

西日が当たる道路を行く1台のバイク。逆光といってもレンズに直射日光が入らなければしっかりしたコントラストを出してくれます。階調も綺麗でモノクロも積極的に撮りたくなるレンズでした。

1/5,000秒 / F4 / ISO200

F11まで絞り込んで遠景を撮影。ビルの非常階段の手すりの1本1本や東京スカイツリーの細かい構造物まで文句の無い解像力で描写されていました。

1/500秒 / F11 / ISO400

■ 夏の空気感を見事に写し取った

85mm前後のレンズといえばF1.4といった大口径が人気で、本レンズはどちらかといえば単焦点としては暗い方でしょう。しかし、カメラの高感度画質が向上した現代では、一般的な撮影では十分対応できます。こうした軽快に持ち歩けるレンズで新品で買える90mmという製品はあまり見当たりませんから、検討する価値は十分にあると思います。

最後に掲載するのは、隅田川を渡って神田川に掛かる柳橋での1枚。まさに夏の湿度が写り込んだような空気感のある写りになりました。こうした描写こそこのレンズの真骨頂と言えるでしょう。

1/160秒 / F2.4 / ISO160

(以上)

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